音楽療法ネタ帳

2025/3/2

【春の音楽療法ネタ帳】高齢者が楽しめる春の歌&リアリティ・オリエンテーション

更新日:2026年5月10日

はじめに | 春の音楽療法ネタ

我が家のチューリップ一行がぐんぐん成長していてウッキウキの音楽療法士・作業療法士のマツダです。春ですね〜

高齢者を対象とした音楽療法や音楽レクリエーション(音楽レク)では、季節感のある楽曲を取り入れることで、認知機能の活性化や情緒の安定を促すことができます。特に、日本の童謡・唱歌には、季節や懐かしさを感じさせる名曲が多く、高齢者にとって親しみやすいものがたくさんあります。

今回は、春を代表する3曲—「春が来た」「春の小川」「朧月夜」—をテーマに、それぞれの楽曲解説と、音楽療法・音楽レクでの活用方法、認知症の方に対するリアリティ・オリエンテーション(RO)との関連についても、専門的な視点も交えながらご紹介します!

1. 春の歌リスト

春や卒業がテーマになる歌については、前回のブログ【3月の音楽療法ネタ帳】【4月の音楽療法ネタ帳】に詳しく載せていますが、『春の歌』のタイトルのみをこちらに載せます。

高齢者が楽しめる春の歌リスト | さくらさくら、荒城の月、花、春の小川、春が来た他

2. 春の歌3選|春が来た・春の小川・朧月夜

実はこの3曲、作詞作曲者が同じなんです!!

作詞:高野辰之

(1876(明治9)年-1947(昭和22)年)

長野県中野市(旧・豊田村)出身の詩人・教育者。自然豊かな環境で育ち、東京高等師範学校(現・筑波大学)を卒業後、東京音楽学校(現・東京藝術大学)などで教鞭をとりました。日本の民謡や伝統芸能の研究にも熱心で、全国の歌を収集し、教育の場に取り入れました。彼の詩は、日本の四季や故郷の風景を繊細に描き、数多くの名曲を生み出しました。

作曲:岡野貞一

(1878(明治11)年-1941(昭和16)年)

鳥取県生まれの音楽家。幼少期から音楽に親しみ、東京音楽学校(現・東京藝術大学)で学び、後に教授として音楽教育にも尽力しました。岡野はクリスチャンであり、讃美歌やオルガンに親しんでいました。その影響からか、彼の作曲する旋律には、西洋音楽の響きを取り入れつつ、日本の情緒と融合させた独特の美しさ、情景が浮かぶようなメロディが特徴です。

高野辰之 × 岡野貞一コンビの名曲

タカノ×オカノの作品は名曲だらけ!

高野辰之 × 岡野貞一の名曲:春が来た、春の小川、朧月夜、紅葉、故郷、うみ

驚くほどお世話になっている名曲ばかり!日本童謡唱歌界のレジェンドですね…

次に、「春が来た」「春の小川」「朧月夜」についてザックリ解説&音楽療法セッションでの楽曲活用アイデアをお伝えします。

※次回、各曲の具体的な活用方法を、資料と一緒にご紹介します!しばしお待ちを!

◾️春が来た

歌詞:春が来た

【エピソード】

1910(明治43)年の作品。文部省(現在の文部科学省)が編集した『尋常小学読本唱歌』 に収録され、学校教育の場で広く歌われるようになりました。

この曲は、春の訪れをシンプルな言葉とメロディで表現しているのが特徴。繰り返しが多く覚えやすく、リハビリ・脳トレとしても活用しやすい1曲!

【音楽療法セッションでの活用・応用例】

  • 歌詞想起(歌詞の穴埋めなど)

  • 話題:

    「どんな時に『春が来た!』と感じますか?」

    「春の花といえば?」「春の鳥といえば?」

  • 簡単な体操

  • 手話

  • 母音『a』で手拍子、母音『o』で足踏み

  • 合奏 

◾️「春が来た」のセッション活用・応用具体例はコチラ

高齢者が楽しめる春の歌|春が来た|春の花と鳥

◾️春の小川

【エピソード】

1912(明治45/大正元)年の作品。こちらも『尋常小学読本唱歌』。この曲の舞台は、東京都渋谷区を流れていた「河骨川(こうほねがわ)」 です。当時は清らかな流れの美しい小川でしたが、戦後の都市化により埋め立てられ、現在は暗渠(あんきょ)となっています。それでも、渋谷区内には「春の小川」の石碑が建てられ、今でも歌のふるさととして記憶されています。

◾️春の小川|歌詞の変更と世代間の違い

「春の小川」は、歌詞が2回改変 されています!世代によって覚えている歌詞が異なるのがちょっとおもしろポイント。文学者・金田一春彦によると、明仁上皇は1912年版、美智子様は1942年版で覚えていらっしゃったというエピソードがあります。

1912年の初版はこちら↓

春の小川(歌詞)1912年版

1947年の改訂版はこちら↓

春の小川(歌詞)

 

  1.  1942(昭和17)年版

    4年生向けから3年生向けに変更される際、文語体が難しい という理由で文部省が林柳波に改訂を依頼。

    「さらさら流る」 →「さらさら行くよ」

    「にほひめでたく」→「すがたやさしく」

    「ひなたに出てて」→「ひなたでおよぎ」

    と口語体に変更され、3番の歌詞が削除される等しました。

  2. 1947年(昭和22)版
    「咲いてゐるねと」が1912年版の「さけよさけよと」に戻されました。

現在の教育現場 では、1947年版と1942年版が混在 しており、地域や教科書によって異なるため、統一された歌詞は存在していない…らしいです。へー!

皆さんは、どちら版で習いましたか?

【音楽療法セッションでの活用・応用例】

  • 歌詞想起(歌詞の穴埋めなど)

  • 新旧歌詞、変わったところ探し

  • 話題:

    「学校ではどちらの歌詞で歌いましたか?」

    「川遊びはしましたか?」「川は綺麗でした?」

    「川にエビ・メダカ・フナ、いました?」

    「泳げますか?」

    ※マツダはザリガニ釣り、オタマジャクシすくいに勤しんでいました♪

  • 簡単な体操

  • 手話/当て振り(言葉にあった振り創作)

  • 合奏

高齢者が馴染みなる春の歌|春の小川|メダカ

◾️朧月夜(おぼろ月夜)

【エピソード】

1912(明治45/大正元)年の作品。こちらも『尋常小学読本唱歌』。高野辰之は、故郷・長野県中野市の春の風景 をもとにこの詩を書いたとされています。

春の夕暮れから夜にかけての時間の移ろい を、美しい日本の原風景とともに表現しています。「菜の花畑に入日(夕日)薄れ」 から始まり「朧月夜」で締める、この素晴らしさ。しびれます。めちゃくちゃ大好きな曲!!

「霞ふかし」「春風そよふく」「におい淡し」「蛙のなく音」「鐘の音」など、五感で情景・空気を感じる豊かな表現たるや 。『景色が見える』を超えて『その情景を体感できる』歌詞にため息が出ます。そして、そんな世界をさらに豊かにする音楽。霞がかった夜のしっとりとした空気感、ほのかに漂う春の花の香り、やわらかい光に包まれた風景が浮かびます…うっとり…

【音楽療法セッションでの活用・応用例】

★曲がとっっても素敵なので、音楽・歌詞を存分に味わうのが一番!

  • 歌詞想起(歌詞の穴埋めなど)

  • 話題:

    「どの季節がお好きですか?」

    「春のいいところって何でしょう?」

    「蛙=かわずと呼んでいた方!」

    「蛙、触れますか!?」

    ※マツダは蛙が苦手。高校が田んぼだらけの環境で、ウシガエルが本当にもう大き過ぎてギャーー!!でした。

  • スカーフと一緒に

  • 手話/当て振り(言葉にあった振り創作)

  • 合奏

高齢者が楽しめる春の歌|朧月夜|菜の花

3. 音楽療法とリアリティ・オリエンテーション(RO)

ROとは?

リアリティ・オリエンテーション(Reality Orientation, RO)=現実見当識訓練は、見当識障害のある認知症の方に対して、日常生活の中で、時間や日付・場所・人・出来事などの認識に、繰り返し働きかけたり、情報を補ったりする療法、支援です。不安をやわらげたり、周囲とのコミュニケーションを促進する効果などが期待されます。

【見当識障害とは】

見当識とは、自分が「いつ」「どこで」「誰と」「何をしているのか」といった基本的な状況を正しく認識する能力のこと。この見当識が低下することを「見当識障害」といいます。

見当識障害は認知症の中核症状の1つで、「時間」「場所」「人物」「状況」 の4つの要素があり「時間 → 場所 → 人物 → 状況」の順番で進行することが多いと言われています。

私は、認知症疾患医療センター勤務時にROについて学び、実践。認知症の方が過ごされる多くの施設で、ROの要素が取り入れられていると思います。音楽・歌を介すROは、認知症の方にとってはストレスが少なくナチュラルなROなのではないかな、と感じていいます。

ROの目的と科学的根拠

1. 認知機能の維持・向上

ROは、記憶や認識力を刺激することで、認知症の進行を遅らせる効果が期待されています。

  • 研究データ: Spector et al.(2000)のメタ分析によると、ROを受けた高齢者は、認知機能スコアの改善がみられたことが報告されています【Spector et al., 2000】。

2. 行動・心理症状(BPSD)の軽減

  • 認知症の方は、時間や場所の感覚を失うことで不安や混乱を感じることがあります。ROによって、現在の状況を明確に伝えることで不安が軽減され、行動・心理症状(BPSD)が和らぐ可能性があります。

  • 研究データ: Onder et al.(2005)の研究では、ROを行うことで、不穏や焦燥感が減少し、穏やかな時間が増えることが確認されています【Onder et al., 2005】。

認知症の行動・心理状態(BPSD)

3. コミュニケーション能力の向上

ROでは、対話を通じて言葉を引き出し、社会的交流を促進します。これにより、認知症の方が他者との関係性を維持しやすくなると考えられています。

◾️認知症ねっと(リアリティ・オリエンテーション)の解説がわかりやすいです!

4. 音楽を活用したリアリティ・オリエンテーション(RO)

音楽がROに有効な理由

  1. 記憶の引き出しを促す
    → 過去に親しんだ歌を歌うことで、エピソード記憶が活性化されやすくなります。

  2. 時間の認識を強化する
    → 季節を感じる歌と会話をつなげることで、季節感を取り戻しやすくなります。

  3. 感情の安定につながる
    → 馴染みの歌を歌うことで安心感が生まれ、気分の落ち込みを軽減できます(音楽療法の情動調整効果)。

音楽療法とリアリティ・オリエンテーション | 音楽を活用したリアリティ・オリエンテーション

音楽を活用したROの実践例

  1. 「今日は…」(カレンダーを探す)→◯月◯日ですね

    ※私は「今日は何月何日でしょう?」という質問の仕方はしないようにしています。分からなくてストレスになるかもしれない問いかけ、幼稚に扱われていると受け取る方がいらっしゃるかもしれないような問いかけは、避けるように意識しています。私自身が「あれ?今日は何月何日だっけ??」という感じでカレンダーを探す→誰かが教えてくれる、と言う流れで行うことが多いです。

  2. 「やっと春めいていきましたね!」「今日最高気温◯度ですって」

    ※ここも「今日の季節は何でしょう?」と問いかけるのではなく、自然な会話の流れで、季節の話題になるようにしています。

  3. 「どんな時に「春が来た!」って感じますか?」

    →春の花が咲く、春風、花粉、鶯の声、新じゃが、など

  4. 「では、そんな春を感じる1曲を歌いましょうか」

  5. 歌った後に、歌詞から会話を広げる

例えばこのような流れで、記憶の想起・定着を助け、時間や季節の感覚を取り戻しやすくなるROに沿って、音楽療法行ったりしています。

音楽に加えて、写真(できればB4以上)やお花、葉っぱ、果物、野菜、などを活用することも。

おわりに

今回は、レジェンド高野辰之 × 岡野貞一コンビの名曲「春が来た」「春の小川」「朧月夜」について深掘り第一弾をお届けました。高齢者が親しみやすいだけでなく、音楽療法・回想療法・ROの観点からも有効な楽曲だと感じています。

リアリティ・オリエンテーションは、認知症の方と関わる上で大事なコツのひとつですが、どこでも誰に対しても教科書通りに、あるいはネットに書いてあった通りに行うのではなく、問いかけられる側の気持ちを想像して、配慮・工夫しながら行うべきだと考えています。セラピストのキャラクターやクライエントとの関係性、グループの特色により、問いかけ・声かけも変わってくると思いますが、お一人お一人を尊重をして関わるとういうことを軸に、思考することがとても大事だと思います。 …と、自分自身に対しても定期的に喝(もう注意されたり怒られなくなっちゃったので、それはそれで、自分で律する必要が大いにある)。

春の歌を取り入れたセッションで、音楽・歌詞を味わいながら楽しみながら、脳と体を活性化していきましょう! 

「春が来た」セッション展開例↓

3月の音楽療法ネタ帳↓

音楽療法士&作業療法士が紹介 | 3月の音楽療法ネタ帳(高齢者向け)

4月のセッション展開例↓

音楽療法士&作業療法士が紹介 | 4月の音楽療法ネタ帳(高齢者向け)

お問い合わせはこちら

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著者

マツダ サチコ

日本音楽療法学会認定音楽療法士、作業療法士、社会福祉士。介護老人保健施設や認知症疾患医療センター、訪問事業所にて勤務。ダブルケアを経て、現在はWebマーケティング・制作会社にて勤務、ディレクションおよび制作を担当。個人事業としてもWeb制作、音楽療法を行なっている。

著者

マツダ サチコ

日本音楽療法学会認定音楽療法士、作業療法士、社会福祉士。介護老人保健施設や認知症疾患医療センター、訪問事業所にて勤務。ダブルケアを経て、現在はWebマーケティング・制作会社にて勤務、ディレクションおよび制作を担当。個人事業としてもWeb制作、音楽療法を行なっている。

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