音楽療法コラム

2025/3/29

音楽療法は本当に「非侵襲的」?リスクと配慮、そして実践者の責任

更新日:2025年3月29日

はじめに

今回は(も)、自分の背筋を正すため、自分自身にベクトルを向けつつ、過去の経験や先生からの言葉を思い出しながら、筆を取りました(実際はキーボードカタカタ)。

音楽療法は、心身に様々な良い効果をもたらす可能性のあるアプローチとして注目されています。『非侵襲的』とされる音楽療法ですが、リスクがゼロではありません。リスクがない療法なんて、ない!リスクについても十分に理解することが、セラピストには必要不可欠であり、良いアプローチに繋がると考えています。本記事は、音楽療法のリスク、配慮すべき点、そして実践者が持つべき責任について、私の経験を踏まえながらお伝えします。

1.音楽療法士は孤独 | 成長を妨げる環境要因

音楽療法士は意外と孤独な職業です。現場に音楽療法士が1人だけ、という環境は珍しくありません。むしろ、多い。他の医療・福祉専門職と比べて、『音楽療法について』『自身のセッションについて』相談し合ったり、注意し合ったり、意見を言い合ったりして切磋琢磨→成長することが難しい職業かもしれないなぁ…と感じています。

音楽療法はコストが高い?:兼務する音楽療法士たち

音楽療法は、コストが高い療法といえます。それは、音楽療法が保険適応外のためです(アメリカやドイツでは保険適応)。そのため、介護職や児童指導員など他の医療・介護・福祉職と兼務している音楽療法士は、多い。もちろん、医療福祉分野の専門家として、関連職種の知識・技術を得て、経験を積むというメリットは多大にあります。コストに関しても、例え保険適応外であっても、音楽療法を実践していることが施設の広告他施設との差別化医療・福祉の質の向上クライエントの健康・満足度の向上などに繋がるといった点で、総合的に判断して音楽療法を導入する病院・施設が増えてきています。

私自身の音楽療法士キャリアスタートは、①先輩から引き継いだデイサービス(月に2回)と、②介護老人保健施設の支援相談員(社会福祉士)兼 音楽療法士でした。両方とも、現場に音楽療法士は私1人でした。老健では相談業務が忙しく、音楽療法の準備・振り返りが十分できないという状況。「ちょっと抜けます!すみません!」「戻りました!すみません!」みたいな。「すみません」じゃないんですけどね…。当時、相談員としても音楽療法士としてもヒヨコ🐣だったので、どっちも中途半端じゃーーん!ポンコツーー!😭と落ち込む日も多々。

仕事を兼務して、どちらの仕事のバッチリやっていくのは大変!というヒヨコ音楽療法士はきっと少なくない。そして、現場に音楽療法士は、自分だけ。孤独。あぁ、おばちゃんが抱きしめに行きたい!(迷惑)

もとい、このような環境要因もあり、音楽療法士が『現場で同業者と切磋琢磨しながら成長していく』ということが難しい側面があるのかもしれない、と感じています。

2.治療における侵襲性と非侵襲性:音楽療法を考える上での重要な視点

音楽療法のリスクと配慮を考える上で、「侵襲性」と「非侵襲性」という医療における概念を理解することは重要です。

  • 侵襲性とは

    治療や検査において、患者さんの身体に何らかの形で傷をつけたり、内部に器具を挿入したりするなど、身体への負担が大きい行為を指します。

  • 非侵襲性とは

    治療や検査において、患者さんの身体に傷をつけたり、内部に器具を挿入したりすることなく、身体への負担が少ない行為を指します。

治療における侵襲性・非侵襲性 | 音楽療法は本当に「非侵襲的」?リスクと配慮、そして実践者の責任 | studio森パレット

音楽療法は、一般的に「非侵襲的」な治療法として認識されています。しかし、本当にそうでしょうか?私は、この認識は非常に危険だと考えています。

音楽には、人の感情や記憶に深く働きかける力があります。それは、良い方向に作用するだけでなく、過去の辛い記憶を呼び起こしたり、感情を不安定にさせたりするリスクも孕んでいます。また、聴覚過敏の方や特定の音に敏感な方にとっては、音楽そのものが大きなストレスになることもあります。

さらに、高齢者の方に対する音楽療法では、注意・集中・疲労のバランスを考慮したプログラムの組み立てが不可欠です。認知機能が低下している方にとって、長時間の音楽療法は大きな負担になる可能性があります。

グループセッションの場合、参加者それぞれの個性や音楽的嗜好を考慮する必要があります。全員が楽しめる音楽を選ぶことは非常に難しく、時には不快な思いをさせてしまうこともあるかもしれません。

音楽療法のリスク管理 | 音楽療法は本当に「非侵襲的」?リスクと配慮、そして実践者の責任 | studio森パレット

学生時代、ある先生が「音楽なんてすごい侵襲的じゃないか!」と仰っていたことが、強く印象が残っています。音・音楽を聞くことはストレスになり得るということを、音楽療法士(・音楽療法的なことを行う方)は肝に銘じて、実践する必要があるのです。

3. 音楽嗜好と心身機能:音楽がもたらすパーソナルな影響

個人の音楽の好みが、感情や身体反応にどのような影響を与えるのか、いくつかの研究結果からその可能性を探ります。※ちなみに私の卒業論文(音楽療法学会で発表)は「音楽聴取による生理学的変化」でした

音楽の好みと心身反応

これらの研究結果は、音楽療法において、対象者の音楽嗜好を考慮することの重要性を示唆しています。音楽は、個人の感情や身体に深く影響を与えるため、その効果を最大限に引き出すためには、個々の好みを尊重したアプローチが大切です。

4.私の経験:音楽療法士としての責任と学び

昔々、私がメイン音楽療法士を勤めていた施設で、ある音楽療法士に対して複数回苦情が入ったことがありました。それは、施設の介護スタッフやご利用者様からのもので、「ピアノを間違え過ぎ」「聞くに耐えない時がある」「チーチーパッパなんてやってられん」といった厳しい声でした。その音楽療法士の方に対し、フィードバックし、また私の方に苦情が入り…ということを繰り返し、その方は結局辞められました。

この件は、私にとって大きな衝撃・反省であり、音楽療法士としての責任を改めて痛感する出来事でした。私のセッションも、喜んでくださっているように見えて、実際は違うかもしれない。。私自身、ピアノも歌も飛び抜けて上手いわけではありません。私はギリギリセーフで大学に滑り込んだので、むしろコンプレックス大。しかし、だからこそ、責任を持って、しっかり準備をして、音楽療法に臨む必要があると強く感じました。

高齢者の方に対する音楽療法の現場や精神科のグループでは、年齢や疾患、音楽的嗜好は本当に様々です。そこで、どのような曲を選び、どのような活動を組み合わせ、どのように司会進行するか。常に思考し、配慮し、バランス感覚を研ぎ澄ませる必要があります。

5.音楽療法の実践:リスクの理解と配慮、そして責任

音楽療法を安全かつ効果的に実践するためには、以下の点を常に意識する必要があります。

  1. 参加者の状態を十分に把握する

    可能であれば、グループの年齢層、男女比、個々の病歴、既往歴、現在の心身の状態、音楽の好みなどを事前に把握する

    ※絶対必要!というわけではない、情報をゲットできない場も実際多い→現場で全集中で観察、対応するパターンも多い

    必要に応じて、医療従事者、他の専門家と連携する

  2. 音楽療法士としての専門性を高める

    音楽療法に関する専門的な知識と技術を習得する

    リスク管理に関する知識を深める

    常に最新の情報を収集し、自己研鑽に励む

  3. 担当領域の専門性を高める

    上記と重なるが、

    例えば高齢者領域であれば、高齢者に多い疾患・障害やリスク管理、介護・福祉の仕組み・サービスについて知識を深める

    例)脳血管障害、認知症、介護保険制度など

  4. 音楽療法の計画を入念に立てる

    参加者の状態や目標に合わせて、音楽の種類、演奏方法、活動内容などを慎重に検討する

    緊急時の対応策を事前に準備する

  5. 参加者の反応を注意深く観察する

    音楽療法中の参加者の表情、言動、身体反応などを注意深く観察する

    異変を感じたら、音楽療法を内容を変更、必要に応じ中断・他職種に相談をする

  6. 参加者との信頼関係を築く

    参加者の意見や感情を尊重し、安心感を与える

    個々の人生・趣味嗜好・参加の仕方を尊重する

    (参加を無理強いしない!かつ、ちゃんと気にかけ配慮する)

  7. 関連職種の方との信頼関係を築く

    音楽療法の内容や目的を丁寧に説明(提示)し理解を得る

    報連相これ絶対

    (状況を見ながら)しっかり頼る、感謝を伝える

音楽療法の効果的な実践と信頼関係の構築 | 音楽療法は本当に「非侵襲的」?リスクと配慮、そして実践者の責任 | studio森パレット

これらの配慮は、音楽療法士だけでなく、音楽レクや音楽ボランティアを行う方にも共通する部分があると思います。

音楽療法の実践:思考、配慮、バランス感覚

音楽療法は、決して「非侵襲的」な安易な治療法ではありません。そこには、常にリスクが伴い、実践者には高い専門性と責任が求められます。

参加者一人ひとりの状態に寄り添い、安全かつ効果的な音楽療法を提供するためには、常に思考し、配慮し、バランス感覚を研ぎ澄ませる必要があります。

6.音楽療法士のピアサポート

お伝えしたように、音楽療法士は孤独に陥りやすい職業です。作業療法士の資格を取り32歳で再就職してからは、その孤独感・焦燥感は薄れました。作業療法士の先輩がしっかりフィードバックしてくれたからです。

音楽療法士サークル こむすび

音楽療法士は95%以上が女性です(確か)。そのため、子育てや介護など、さまざまな家庭の事情でキャリアの継続が困難になるケースが多いのです。正社員率が低く、週に2・3日〜月に1回といった音楽療法講師の現場を組み合わせている音楽療法士が少なくないこと、出産・子育て・転居により仕事を辞め、仕事復帰できる状況になったら1から仕事探しという方、家族のケアで急遽休みことになっても代わりができる音楽療法士がいない!というケースも…。音楽療法士のキャリアを中断なく重ねていくことは、なかなか困難なのが現実です。

6年ほど前から参加している音楽療法士のピアサポートグループ「こむすび」は、そんなプライベートとキャリアの両立に悩む音楽療法士のための、ピアサポートグループです。ご興味がある方は、ぜひこむすびのWebサイトをご覧ください(マツダが制作しました)。

 

音楽療法士サークル こむすび | 音楽療法士ピアサポートグループ

 

おわりに

今までのブログでは、音楽療法のメリットばかりを書いてきたような気がしたので、今回はあえて『音楽療法のリスク』に着目したブログにしました。メリットしか説明しない営業・企業は信頼性が低いと言われています。しっかり、リスク・デメリットをも理解、説明できてこそ専門家!

…と、自分自分の尻を叩いて本記事を書きました。

studio森パレットでは、ご相談に応じ、医療・介護・福祉施設での音楽療法プログラムの提案・実施や、音楽レク・音楽ボランティア向けの研修会なども行っております。音楽療法に関するご相談、ご依頼は、studio森パレットまでお気軽にどうぞ✨

【春の音楽療法ネタ帳】高齢者が楽しめる春の歌&リアリティ・オリエンテーション | studio森パレット

お問い合わせはこちら

navigate_next

著者

マツダ サチコ

日本音楽療法学会認定音楽療法士、作業療法士、社会福祉士。介護老人保健施設や認知症疾患医療センター、訪問事業所にて勤務。ダブルケアを経て、現在はWebマーケティング・制作会社にて勤務、ディレクションおよび制作を担当。個人事業としてもWeb制作、音楽療法を行なっている。

著者

マツダ サチコ

日本音楽療法学会認定音楽療法士、作業療法士、社会福祉士。介護老人保健施設や認知症疾患医療センター、訪問事業所にて勤務。ダブルケアを経て、現在はWebマーケティング・制作会社にて勤務、ディレクションおよび制作を担当。個人事業としてもWeb制作、音楽療法を行なっている。

すべてのお知らせ・ブログ

navigate_next